米国は第一弾として7月6日に自動車や情報通信機器等818品目340億ドル、第二弾として8月23日に化学品、鉄鋼製品、電子部品等279品目160億ドル、第三弾として9月にテレビ、農産品水産品等6,031品目2,000億ドルを発動、制裁対象となる中国製品は合計で2,500億ドルと発表しました。
これに対して中国は米国の第一弾に対し即座に545品目340億ドル、第二弾に対し8月23日に333品目160億ドル、第三弾に対して5,207品目600億ドルの報復を打ち出しています。
中国は米国産の2割を輸入している原油を、当初は制裁対象に含んでいましたが8月8日の発表で対象から外しました。
逆に、中国は米国産LNGの世界第三位の輸入国であり当初リストから外していたにもかかわらず、第二弾で25%の追加関税適用対象に加えました。このリストの入れ替えの裏にある中国の『判断』を推測するとき、米中貿易戦争の本当の怖さが見えてきます。
中国は先行きの原油価格の高騰を想定し純輸入国としての自国の不利を緩和すべくリストから外し、LNGについては米国産の穴を他ソースからの輸入で埋め合わせることが可能と読み切りリストに加えたという推測が成り立ちます。
トランプ政権はイラン核合意から5日に離脱、7日からイランとの自動車、鉄鋼取引を禁止、11月以降には原油取引も禁じます。
サウジアラビアとUAEなど湾岸諸国はカタールと断交しましたが、世界最大のLNG輸出国であるカタールは世界最大級の天然ガス田をイランと共有しておりイランよりであることがその原因です。
混迷を深めるシリア内戦の停戦に向けてイラン、ロシア、トルコは4月に協議を開始しましたがトルコはイラン、ロシアからパイプラインで天然ガスの供給を受けているという関係です。
昨年末にはロシア北極圏で大型のヤマルLNGプラントが操業を開始しましたが、国営の中国石油天然ガス集団とシルクロード基金が合計で29.9%出資しています。
イランを背後で支える中国はカタール、ロシア等から途絶する米国産LNGの穴は埋められると『判断』したことは想像に難くありません。
原油はどうでしょうか?
7月末、穏健派のロウハニ大統領がホルムス海峡を閉鎖する可能性を示唆しました。
最悪のシナリオはイランも核合意から離脱し核開発を再開、これに対してイスラエルやイエメンでイランの支援を受けているとされるフーシと交戦中のサウジアラビアがイランを空爆、ホルムス海峡がイランにより封鎖される・・・。
原油の純輸入国である中国が米国産原油を追加関税適用リストから外した理由はこのシナリオが現実化する可能性が高いと『判断』した?
戦争は貿易に留まらなくなるかもしれません。