2017年11月28日火曜日

家庭用エネルギー業界にとっての自動車のEV化とは?

『自動車業界の本格的EVシフトでガソリン自動車は消えるのでは?』などと構えるとガソリン自動車関連の方々からは『とんでもない!』といった声が帰ってくることは目に見えています。
ただ、極端なall or nothing議論ではなく、本邦の家庭用エネルギー業界にはどんな影響がありえるのかについて、ざっくりとイメージしてみたいと思います。 

今、私たちは電気・都市ガスという家庭用エネルギー小売全面自由化時代の入口に立っていますが、石油業界は1951年に石油輸入が再開されて以来50年を経過した2002年に石油業法が廃止され自由化されました。
しかしながら、消費地精製主義に立った需給計画は輸送用燃料であるガソリン・軽油と民生用灯油の安定供給に置かれ、石化原料のナフサや発電燃料としての原重油は輸入で補うという基本形は自由化以降も維持されており、原油処理量は最も収益性が高いガソリン生産量に基いて決定されています。

家庭用エネルギーとしての灯油ですが昨年一年間の国内生産・販売量は約1,200万tでした。
そこで仮に自動車業界のEV化によりガソリンの需要が10%減ると仮定すると、原油処理量も10%減り、分かりやすくするために原油の油種や精製プロセスを脇に置くと、灯油も10%、120万t減産されることになります。


さて、LPガスですが、石油製油所と石油化学工場からの生産品を合わせ年間国産量は約350万t、輸入品が1,150万t、合計1,500万tが国内販売されています。
用途は家庭用、飲食店などの業務用、一般工業用、都市ガスの増熱用、タクシー等の自動車用、大口鉄鋼用、化学原料用と多岐に亘っていますが、その内2,400万世帯向けの家庭用エネルギーとしてのLPガスの需要は年間400万tという規模です。

先の原油処理量が10%減り減産される灯油120万tは同じ熱量ベースで見るとLPガス100万tに相当します。これは600万世帯の家庭用需要に相当し、先行き喪失が懸念されるLPガス自動車用需要全量に相当します。
仮にガソリン車の40%がEV化され原油処理減によって減産される灯油をLPガスで全量穴埋めすると、現在の家庭用LPガス需要2,400万世帯分に相当する新規需要が生まれる、という規模感です。

少子高齢化、長引く不況感による節約、省エネ機器の開発・普及により消費原単位が毎年減少し、自由化によりエネルギー間競争が激化するなか、自動車のEV化により減産される国産灯油の穴を埋められるのは、輸入灯油、電気、都市ガス、そしてLPガスですが、家庭用エネルギー業界にとって『国産灯油代替』は大きな戦略課題になる可能性を秘めていると考えられます。