2018年8月11日土曜日

米中貿易戦争の怖さ

トランプ米国とシー・ジンピン中国の貿易戦争がエスカレートしています。

米国は第一弾として7月6日に自動車や情報通信機器等818品目340億ドル、第二弾として8月23日に化学品、鉄鋼製品、電子部品等279品目160億ドル、第三弾として9月にテレビ、農産品水産品等6,031品目2,000億ドルを発動、制裁対象となる中国製品は合計で2,500億ドルと発表しました。

これに対して中国は米国の第一弾に対し即座に545品目340億ドル、第二弾に対し8月23日に333品目160億ドル、第三弾に対して5,207品目600億ドルの報復を打ち出しています。


中国は米国産の2割を輸入している原油を、当初は制裁対象に含んでいましたが8月8日の発表で対象から外しました。

逆に、中国は米国産LNGの世界第三位の輸入国であり当初リストから外していたにもかかわらず、第二弾で25%の追加関税適用対象に加えました。このリストの入れ替えの裏にある中国の『判断』を推測するとき、米中貿易戦争の本当の怖さが見えてきます。


中国は先行きの原油価格の高騰を想定し純輸入国としての自国の不利を緩和すべくリストから外し、LNGについては米国産の穴を他ソースからの輸入で埋め合わせることが可能と読み切りリストに加えたという推測が成り立ちます。

トランプ政権はイラン核合意から5日に離脱、7日からイランとの自動車、鉄鋼取引を禁止、11月以降には原油取引も禁じます。

サウジアラビアとUAEなど湾岸諸国はカタールと断交しましたが、世界最大のLNG輸出国であるカタールは世界最大級の天然ガス田をイランと共有しておりイランよりであることがその原因です。

混迷を深めるシリア内戦の停戦に向けてイラン、ロシア、トルコは4月に協議を開始しましたがトルコはイラン、ロシアからパイプラインで天然ガスの供給を受けているという関係です。

昨年末にはロシア北極圏で大型のヤマルLNGプラントが操業を開始しましたが、国営の中国石油天然ガス集団とシルクロード基金が合計で29.9%出資しています。

イランを背後で支える中国はカタール、ロシア等から途絶する米国産LNGの穴は埋められると『判断』したことは想像に難くありません。


原油はどうでしょうか?

7月末、穏健派のロウハニ大統領がホルムス海峡を閉鎖する可能性を示唆しました。

最悪のシナリオはイランも核合意から離脱し核開発を再開、これに対してイスラエルやイエメンでイランの支援を受けているとされるフーシと交戦中のサウジアラビアがイランを空爆、ホルムス海峡がイランにより封鎖される・・・。

原油の純輸入国である中国が米国産原油を追加関税適用リストから外した理由はこのシナリオが現実化する可能性が高いと『判断』した?

戦争は貿易に留まらなくなるかもしれません。

2018年7月10日火曜日

気になる中東情勢

いよいよ米中の貿易戦争の火蓋が切って落とされました。

トランプ政権の自国第一主義が中国のみならず、ヨーロッパ諸国も巻き込んだ報復関税と対抗措置の連鎖に繋がり、世界の貿易が縮小し、世界規模での景気の後退が懸念されます。

さらには、かつて大恐慌が発端となって世界大戦に突入した暗い歴史の再現に警鐘を鳴らす向きも増えています。

また、トランプ政権は5月8日に米・英・仏・独・ロ・中とイランの核合意からの離脱を公約通り宣言、国際協調に背を向けイラン敵視政策を開始しました。

最高レベルの制裁措置を取るとしており、また、アラブ・イスラーム諸国にとっては屈辱の日であるイスラエル建国記念日の5月14日、建国70周年を祝う形でエルサレムに米国大使館を移しました。

イラク復興の道半ば、シリア内戦と大量の難民問題、イスラーム国掃討戦の継続、イエメンでのサウジ・イラン代理戦争の深刻化、サウジや湾岸諸国等とカタールの断交といった混迷する中東情勢に、イスラエル寄りの全米最大の宗教団体キリスト教福音派のトランプ大統領によりイラン核問題が復活、同時にパレスチナ問題が一触即発の新しい局面へと移されたわけです。 


資本主義が生み出した資本と階級社会からの脱落者がアジア、アフリカ地域に輸出されることにより植民地主義が生み出され、英・仏による第一次世界大戦によるオスマントルコの植民地化に向けた対アラブ、対ユダヤ二枚舌外交の結果パレスチナ問題が歴史上に生起されました。

1948年に米国の後押しによりユダヤ人国家イスラエルが強引に建国され、第四次に亘る中東戦争の挙句、1977年にアラブ諸国の中心であったエジプトが経済的疲弊からイスラエルと和平交渉を開始、1979年に平和条約締結、サウジともども米国との同盟関係を確立しました。

すると同年イランにおいてイスラーム革命が起き反米・反イスラエル政権が樹立されましたが、この年にサッダーム・フセインがイラク大統領に就任、翌年イラン・イラク戦争開戦、米国はイラクを支援します。

この戦争終結からわずか2年後の1990年に湾岸戦争、2001年9月11日の世界同時多発テロを経て2003年のイラク戦争で米国中心の多国籍軍がフセイン大統領を排除したのでした。結果イラクの西、シリアの東、トルコの南の空白地帯にイスラーム国勢力が展開、今日の大混乱へと続いています。


米国による世界的規模の貿易戦争の開戦によって国際協調がますます分断され、世界の景気が大きく後退していく中、石油、ガスという重要なエネルギーの供給元で異様なまでに高まったこの地政学的リスクに誰がどのように対処する(できる)のでしょうか? 

中東情勢がとても心配です。

2018年6月7日木曜日

働き方改革 ~ 牧場とAI

最近テレビの報道番組で北海道十勝のベンチャー企業が開発したクラウド型牛群管理システムの導入事例が紹介されているのを偶々視ることができました。

最近の牛肉価格高騰の原因のひとつが仔牛価格の高騰にあるそうで、畜産農家は自社繁殖に力を入れざるを得ないという状況で、そこに人工知能を使ったシステムを導入、牛の健康維持管理さらには繁殖率の向上という課題が克服された、というお話です。


牛の首に装着した端末が常時牛の健康状態をチェックし、3mの距離にスマホを持って行くとBluetoothでその牛の個体識別番号を認識、その牛に関する必要な情報が把握でき、過去の病歴、治療歴、受精歴などの必要な情報もその場で閲覧できる、という優れもの。

さらには、牛舎に行くことなくリアルタイムで個々の牛の発情兆候開始予想時刻がわかり、精度の高い人工授精に繋げることができ、また、発情兆候の通知の異常から子宮嚢腫や卵胞嚢腫といった病気の発見にも役立つという、人工知能を活用した新システムには驚きました。

紹介された牧場では発情の半分が夜中でこれまで見逃していたことがわかり、発情発見率が従来の2~3倍、80%にまで改善され、結果妊娠率がアップ、自社繁殖率向上に繋がったとのことでした。


加えてこれこそが働き方改革の真骨頂ともいえることは、発情兆候の予知情報が通知されることから、牛につきっきりで発情兆候を目視する必要が無くなり、空いた時間を他の仕事や休養に使うことができるようになったのみならず、あらゆる現場情報が同時にスタッフ全員で共有化されることで、担当者がいつでも休暇を取れるようになったところにあります。

業務プロセスが大きく改善され、念願の新入社員も目を輝かせて来てくれるようになったと当該牧場の社長以下スタッフ全員が大喜びをしていました。


以前に働き方改革法案について触れました。

法案は衆院を通過し、参院で審議入りしましたが、罰則付き残業時間規制はもはや現実のものとなりました。LPガスリテール業界の保安、債権管理などの業務プロセスのデジタル化、見える化、省力化について議論する際に、『牧場を、手のひらに 牛群管理がもっとかんたんに、最新のファームマネジメントプラットフォーム』、は示唆に富んでいる、と強く感じた次第です。

2018年5月14日月曜日

2050年エネルギーシナリオの論点―②

経済産業大臣の諮問機関であるエネルギー情勢懇談会は『2050年のエネルギー戦略に関するシナリオ』最終提言を4月10日に提出しました。

『提言の副題は“エネルギー転換へのイニシアティブ”、その設計の基本は“野心的だが複線型のしなやかなシナリオ”、こうしたシナリオと科学的レビューメカニズムで構成する。
実行の基本は“総力戦”。脱炭素化へ向けた新たなエネルギーシステムの確立に向けた政策強化、国際的なエネルギー転換アライアンスの形成、エネルギー産業・インフラの再編強化、資金循環メカニズムの4つで構成される(提言からの抜粋)』とされています。

2050年のエネルギー戦略シナリオについて、
①福島原発事故を原点に、
②可能性と不確実性の情勢変化の中で我が国が主導性を発揮し、
③エネルギーの自立と世界的な脱炭素化の課題を両立させる、
という3点を踏まえ今から政策・産業・金融が立ち向かうべき大きな方向性を纏めて頂いた委員の皆様のご尽力に対し心から敬意を表したいと思います。


省エネ、脱炭素化技術革新とその経済性を踏まえた実用化のスピード、分散型エネルギーシステム社会に向けた発想とインフラの転換の実現性の高低等次第で、具体的なシナリオは大きく異なったものになることは明らかですが、2030年を対象としたエネルギー基本計画見直し作業と併せ読むことで、パリ協定向けのエネルギー政策の具体的目標が理解できます。

2030年度の電源構成は
原子力20-22%、再生エネ22-24%、ゼロエミッション電源合計42-46%と現時点での17%から25-30%近く増加させる。

そのために年間5億kWh以上の電気小売り事業者に対して供給電力の44%をゼロエミッションにするよう義務つけ、日本卸電力取引所に非化石価値取引市場を立ち上げ『非化石証書』を売り出すことを5月初頭に経産省は発表しました。


この2030年に向けて供給電力の44%をゼロエミッションにするという目標は原発30基の再稼働が前提されているとのことです。

東京電力2基、関西電力4基、九州電力1基の合計7基は設置変更許可を取得、関西電力3基、九州電力3基、四国電力1基の合計7基は安全性の確保を大前提に再稼働、さらに現在新規制基準への適合性審査中の12基を全て合わせて26基は少なくとも稼働させることが計画されているのです。

2050年に向けたエネルギー情勢懇談会がその議論の原典に据えた福島原発事故、その廃炉と完全除染の方向性も定まらないなかでの30基再稼働による44%ゼロエミッション化義務付けを新しいエネルギー基本計画の背骨とせざるをえない現実を、私たちは深刻に捉えるべきでしょう。


将来への責任を睨み子供の数だけ親の投票権を増やす『ドメイン投票方式』は、本来の民主主義とは矛盾があるとはいえ、一考の余地ありかな、と思ったりする今日この頃です。

2018年4月3日火曜日

2050年エネルギーシナリオの論点

新年度に入りました。
エネルギー需要開発協同組合と致しましても新たな気持ちで家庭用エネルギーリテール業界のご発展のために微力ながら尽くして参りたいと思います。
改めまして、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 
さて、2002年に制定された「エネルギー政策基本法」では3年ごとに我が国のエネルギー基本計画を策定することになっており、現在のものが2014年に2030年までを対象に策定されてから3年が経ち、計画の見直しが総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で行われております。

これと並行的に、パリ協定の2050年時点で温室効果ガスを80%削減するという我が国の目標達成の困難さを踏まえ、経済産業大臣主催の「エネルギー情勢懇談会」が昨年8月に設置され、2050年のエネルギーシナリオの議論が開始されました。先月、3月30日に発表された同懇談会の論点整理に触れてみたいと思います。

論点は4つあり、論点1では、技術革新が脱炭素化の可能性を増大させることを認めつつも、技術・国家・産業間の競争激化や新興国の台頭による地政学的リスクの増大等不確実性が高まることを踏まえた国家戦略が必須になろう、としています。

論点2では、エネルギー基本計画の2030年シナリオと違い、可能性と不確実性に着目して多様性を加味した、しなやかな複線シナリオとするべきと。

論点3では、電力システムのゼロエミ化、熱システムの電化・水素化、輸送システムの電動化、分散型・次世代省エネ化のエコシステム形成、海外脱炭素化貢献といった野心的取り組みが必要であろうと。

そして論点4では、2050年シナリオ実現に向けて安全の革新、エネルギー安全保障、技術革新・競争力強化による経済性向上を同時達成すべく総力戦対応が不可欠であろうと結んでいます。


私は、同懇談会の枝廣委員(東京都市大学環境学部教授)から提出された参考資料に興味を惹かれました。

福島原発事故を踏まえ2050年には原発依存度ゼロ、他国がどうであれ日本が現実的な原発のたたみ方を考えるべし、とあります。

その理由として、経済性の悪さと日本固有の大地震発生リスクを指摘、原発依存度を15~20%と置けば40年廃炉を前提として新増設が必要な原発の数は、2030年までに2~9基、2050年までに20~27基、2100年までに40~54基と指摘し、その必要性を問いかけて(不要性を訴えて)います。


エネルギー情勢懇談会の論点整理は2050年までに日本で起こり得る多様な選択肢に応じた複線シナリオに基いて野心的ビジョンを定めるよう提言するとのことですが、そこでは枝廣委員の指摘する巨大地震発生リスクは特筆・強調されていません。

一方で内閣府の中央防災会議では2012年時点で30年以内に発生する大規模地震の確率として首都直下地震70%、東海地震88%、東南海地震70%、南海地震60%としており、またこれらが連動して起きる可能性を指摘しています。

2050年に向けてこれらの確率はもっと高くなっていく、という大前提に立った提案を懇談会には期待したいところですが、そうではなくて、パリ協定の2050年温暖化効果ガス80%削減目標は大変厳しく、その達成のためには一定の原発が必要不可欠で、そのための安全審査・対策をしっかりと講じるべし、という提案になるとすれば、そもそも順番が逆のように思うのは私だけでしょうか?

今春のエネルギー情勢懇談会の最終提言を待ちたいと思います。

2018年3月5日月曜日

内なる働き方改革

今の国会での働き方改革法案を巡る論戦は酷いものです。

労働生産性を高め、長時間労働を是正し、公正な待遇を確保することを目的とした一括法案ですが、国の将来を見据えたそもそも論は脇に置いて、経済界が望む裁量労働制の対象拡大と高年収の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度の創設、労働組合が望む残業時間の上限規制導入を刺し違えるバーター取引で、お互いの損得勘定を言い合っているようにしか見えません。
お粗末な厚労省の残業時間データが原因で採用労働制対象拡大案は法案から削除されましたが、月100時間未満、年720時間の残業上限は違反企業に対する罰則付き規制として可決される見通しで、労働組合の完勝と与党内では揶揄されているようです。


ところで、本邦総雇用者数は約5,510万人、その内正規雇用の従業員は約3,450万人、非正規の従業員は2,060万人です。
また、2万5千ある組合の組合員数は約990万人、内パートタイムの組合員数は110万人強、組合組織率はわずか17%です。
即ち、労働組合の勝利とは無関係な4,520万人、83%の非組合員就労者の多くが働く中小零細企業労使双方の意見が組み上げられないまま働き方改革法案論議がなされているわけです。

今月から企業による2019年新卒採用情報の公開が解禁となり、6月からは昨年より2か月前倒しされた面接が開始されます。
この中で中小・零細企業の人材確保は益々難しくなっており、人手不足がより深刻化するという経営環境の中での罰則規定付き残業上限規制の導入です。


LPガスリテール業界については入社、転勤、卒業、入学等に伴う転居が集中する今月から来月にかけて最繁忙期を迎えます。
液石法等の関連法規のコンプライアンス遵守、経営上の要請としての売掛代金決済など、全て顧客宅訪問による業務が一時に集中しますが、将来的に残業上限規制のために業務が一定期間内にこなしきれないという事態が懸念されます。
また平時は液石法が要求する30分駆けつけ体制を24時間365日維持するための体制がとられています。
今冬のような豪雪や風水害、あるいは震災といった自然災害時の保安、安定供給を果たすという強い義務感を持つこの業界の側から見ると、いざというときに働きたくとも働けず、顧客の要請に応じられない状況を生み出す罰則付き規制の導入です。

LPガスリテール業界としては社員の生産性向上、働き甲斐を実感するに足る処遇を整えるどころか、人材・人手不足の悪循環から脱出できずに法令遵守すらままならない事態となることが危惧されます。
人でなくてはできないアナログ領域と自動化できるデジタル領域を徹底的に仕分け、自動化できるところは自動化する、同業他社と同一業務を共同でアウトソースするといったような、業務プロセスの徹底的な再構築のための先行投資と一体化した、この業界としての内なる働き方改革がいよいよ必要になってきたと思います。

2018年2月5日月曜日

運び手不足

博多に、税込1,500円で新鮮なお刺身、てんぷら、茶わん蒸し、煮物、お椀、辛子明太子が楽しめるサービスランチが名物の老舗生簀料理屋さんがあります。
このお店の40年以上続いたランチが2月25日をもって営業終了となるそうです。
入口で『人材確保が難しくなり昼食を作り続けることができなくなりました』という立て看板を見つけて大変驚きました。
九州最大級の生簀を囲む二百の客席は活気に満たされ昼時は連日何回転もしています。
客数は中国、韓国などの外国人旅行者も多く長蛇の列をなすほど増えているのに対し、従業員の高齢化、後継若手従業員不足で切り盛りする人手が確保できないための営業終了ということです。

同様な話としてトラックドライバー2020年問題というのがあります。
東京オリンピック・パラリンピックに向けて建設関連物資輸送ニーズが急増、ドライバー需要総数が90万人を上回るのに対し10万人以上不足するという見通しがあるとのこと。
ここでも需要の増加、既存ドライバーの高齢化、後継若手ドライバー不足という構図があります。
若手が集まらない理由は過酷な労働環境、長時間労働、低賃金。
宅配事業者に見られるように運賃の値上げ・サービス残業の解消、ベースアップで賃金は改善のしようがありますが、働き方改革とほど遠い印象を払拭することは容易ではないと思われます。


さて、家庭用エネルギーリテール業界では電気、都市ガスは運び手を必要としません。
しかし、灯油は北海道などではバルク供給、LPガスはシリンダー供給と運び手が必要な業態で、需要規模は縮小傾向にあるものの運び手の高齢化と若手配送員の確保難は深刻な経営問題です。
灯油やLPガスのルート配送の場合、ひと月の内の配送タイミングと配送エリアに継続反復性があることから、ベテラン配送員は季節、月日、曜日、時刻、天候等に応じて最適配送ルートを自らの経験則に照らして選ぶノウハウを持っています。
このノウハウを継承すべき若手配送員不足は配送効率を悪化させ、業績の悪化に繋がると懸念される事業者の方は少なくないようです。

電気に続いてガスのスマートメーターも世に出つつあります。
リアルタイムの使用量をもとにIoT、AIを活用してベテラン配送員並みの効率配送ルートを割り出すシステムを開発、研修を用意して保安業務員資格取得をサポートし、委託契約で配送・点検業務スタッフを確保するという動きが出てきています。
さらには検針員の他事業領域での活用、保安を担う社員不足対応やFintech時代の新たな決済も視野に入れた総合的な業務プロセスの再構築をきっかけに、機能単位の横断型の業界再編が異業種も巻き込んで進むとすれば、第四次産業革命時代に相応しい潮流となると思いますが、いかがでしょうか?

2018年1月9日火曜日

家庭用エネルギー完全自由化時代の競合の様相

皆様、新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

平成31年4月30日の天皇陛下の譲位が閣議決定され、今年の秋ごろには新しい元号が発表される運びで、まさに新しい時代の幕開けといった感があります。
一方で家庭用のエネルギーリテール業界も一昨年には電気の小売が、昨年は都市ガスの小売が全面自由化され、新しい時代に入りました。
昨年末の本稿では国産灯油の減産分を輸入灯油、電気、都市ガス、そしてLPガスが取り合うという家庭用エネルギー間競争の可能性について述べましたが、そもそも完全自由化時代の競合の有様はどのように変わっていくのかについて鳥瞰してみたいと思います。


文化人類学領域で有名な「ぼやけたジャンル(Blurred Genres)」という、古典的学問領域を超えた学際的視点を重視する手法は高く評価され、20世紀後半以降の新しい科学様式となりました。
これを家庭用エネルギー業界になぞらえてみると、これまでは石油業界、電力業界、都市ガス業界、LPガス業界等、ある事業者が所属する業界とそれ以外の業界、乃至、自らが扱うエネルギーとそれ以外という視点で競合を捉え、対抗策を講じるという様式でした。

しかし自由化政策の目論見は既存のエネルギー業界・種区分をBlurred Genresさせ、同時に異業種からの参入も促し、業界領域を超えた視点による分析力と新たな経営様式の確立によって低廉で安定的なエネルギー供給を可能ならしめるところにあります。

企業文化を異にして互いに競合する家庭用エネルギーの事業主体は次のとおりです。
① 一般電気
② 新電力
③ 都市ガス
④ 石油
⑤ LPガス
⑥ 異業種
⑦ 一般電気+一般電気連合
⑧ 一般電気+新電力連合
⑨ 一般電気+都市ガス連合
⑩ 一般電気+石油連合
⑪ 一般電気+LPガス連合
⑫ 一般電気+異業種連合
⑬ 新電力+新電力連合
⑭ 新電力+都市ガス連合
⑮ 新電力+石油連合
⑯ 新電力+LPガス連合
⑰ 新電力+異業種連合
⑱ 都市ガス+都市ガス連合
⑲ 都市ガス+石油連合
⑳ 都市ガス+LPガス連合
㉑ 都市ガス+異業種連合
㉒ 石油+石油連合
㉓ 石油+LPガス連合
㉔ 石油+異業種連合
㉕ LPガス+LPガス連合
㉖ LPガス+異業種連合
㉗ 異業種+異業種連合
プラスα

二者タイアップだけでも27種類の事業主体がこれまでのバックグラウンドに拘わらず、電気、都市ガス、石油、LPガスの全てに加え、エネルギー以外の家庭用商材、駆付や見守等の安心・安全サービス、さらには保証、保険、医療分野まで広がりのあるラインアップとパッケージディールを用意し、2事業主体間だけでも27C2=351通りの様相で、第四次産業革命時代に備える投資も視野に入れたジャンルなき競合を繰り広げることになるわけです。